ミュンヘン観光の中心となる旧市街の北端には、オデオン広場があります。その左右にはレジデンツとテアティーナ教会が並んでいます。テアティーナー教会は、王位継承者のマックス・エマヌエルが1662年に誕生したのを記念して、1667年にローマにある同名の教会を模して建立されました。クリーム色の外観が特徴的なこのバロック建築の教会は、ヴィッテルスバッハ家の皇帝25人が眠っていることでも有名です。ファサードは1768年にロココ調に改築されました。
このドイツにおける最高のバロック建築と謳われている教会で私は不思議な光景を目にしました。イスラム教徒の母娘が会堂の椅子に静かに腰掛けていました。彼女たちはアラブ系と思われる目鼻立ちのはっきりした顔立ちをしており、頭にはスカーフを巻いていました。
勿論、今までにも知らぬ間に教会内でイスラム教徒とすれ違っていたことはあったでしょう。イスラム風の服装をしていない限り、彼らを外見で判断することはできません。母娘のようにイスラム教徒であることを主張しながら、異教徒の祈りの場で静かに時を過ごす姿は、清逸で侵すべからず光景でした。
母親を椅子に残したまま立ち上がった上品で好奇心の強そうな若い娘さんは、会堂を一周してからマリア様の像に近づいていきました。そして、献金をしてからマリア様のためにロウソクを灯しました。お祈りはしませんでしたが、しばらくマリア様を見つめていました。私は言葉が見つからないほどの感動を覚え、しばらく娘さんとマリア様の姿を見つめていました。