ミラノ-ナポリ間を結ぶ「太陽」と呼ばれる高速道路と、フィレンツェからピサ方面へ向かう高速道路が交差する場所にある「洗礼者聖ヨハネ教会」。一般には「太陽の高速道路教会」として知られている教会だ。不思議な形をしていて、普通教会を中心として町が広がっているわけだが、ここは陸の孤島という印象を受ける。なぜこんな不便なところ建設したのかというと、高速道路建設の際、命を落とした人々を追悼するためだそう。
1960年から64年にかけて、ピストイア生まれの建築家ジョヴァンニ・ミケルッチにより設計され、彼が73歳のときの作品である。教会の周囲を一周すると、それぞれの角度で異なる顔を持ち、とても流動的で面白い建築物だ。外壁にはピサのサント・ジュリアーノから運んできた石が使われている。この石材は、金槌で割るとパンッと割れて自然な形となるのが特徴で、その自然さを利用して造られた外壁は大地を思わせる。そして、砂漠の遊牧民の天幕をイメージしたという屋根は、ゆるく波打っている。
入り口の青銅の扉には、PericleFazzini作「紅海渡渉と三博士の礼拝」のレリーフが飾られ、扉をくぐるとギャラリーのような拝廊がある。10枚の青銅のレリーフには、高速道路をつなぐ都市の守護聖人と聖人にまつわるエピソードが刻まれている。聖堂へ続く扉には、当時の法王であるジョヴァンニ23世とフィレンツェのドゥオーモの大司教の紋章が入る。この教会の主祭壇は、建物の中心に位置するのが特徴だ。そして、主祭壇の上のガラス窓には、祭壇画として教会が捧げられた聖人洗礼者ヨハネ(フィレンツェの守護聖人)を描いた、ガラスと鉄製のステンドグラスがある。主祭壇のほかに3つの祭壇があり、2階には婚姻専用の祭壇もある。天井まで凝った造りとなっている。
どれもこれもコンクリートの塊という感じで、機能美というのかもしれないが、官能的な美しさというものは感じない。しかし、この建築物はモダンであると同時に美しい。設計者のミケルッチはインタビューで、高速道路を利用する人が心の休息をとるのに立ち寄ってもらいたい場所だと話している。個人旅行でイタリアに来ている人は、心を休めに訪れてみてはいかが?