ヒルトップはべアトリクス・ポターが39歳のときにピーターラビットの絵本を描いた印税で購入した小さな農場です。現在はNationalTrustの管理下にあるものの、家の調度品や庭のハーブガーデンも当時のまま残され、べアトリクスの慎ましい暮らしぶりがうかがえます。(中での撮影は禁止されているので写真は外観のみです。)べアトリクス自身はロンドンの出身ですが、亡くなるまでの生涯の半分を湖水地方で暮らしました。ピーターラビットの絵本の中には「こねこのトムのおはなし」「あひるのジマイマのおなはし」「ひげのサムエルのおはなし」などヒルトップでの生活とその風景が舞台となったものがいくつもあります。ピーターのような野うさぎに出くわすことはありませんでしたが、ヒルトップ周辺には緑の丘で羊や牛がゆっくり草を食む、ピーターラビットの挿絵そのままの素朴で美しい世界が広がっていました。ピーターラビットのお話はべアトリクスが27歳の時、彼女の知り合いの5歳の息子が病に倒れた際にこの男の子を元気づけようと送った絵手紙がきっかけです。産業革命によって美しい自然が損なわれていくのを懸念し、貴重な自然が残る地域を少しずつ買い取っては、そこを開発から守る活動をしていたハードウィック・ローンズリー牧師に賛同し、べアトリクスも本の印税で築いた財産で湖水地方の土地を次々と買収し、政府や他機関の保護や援助なしの自然保護活動(ナショナルトラストの前身)に多大な協力を惜しみませんでした。べアトリクスが所有していた全部で15の農地を含む4000エーカー(514万坪)にも及ぶ土地は彼女の死後全てナショナル・トラストに遺贈されました。現在ナショナル・トラストは湖水地方のおよそ4分の1を所有し保護しています。べアトリクス・ポターというとピーターラビットのお話で知られていますが、彼女の偉業は素敵な絵本を残したことを越え、湖水地方の自然を残したことに尽きます。昔からずっと当たり前のようにそこにあるようにみえる景色が、実はその土地を愛した人たちの善意によって守られ、あるべくしてそこにあることを忘れないようにしたいと思いました。