南禅寺の境内に立ち、400年以上もの間、京の歴史を見続けてきた老舗料亭です。説明不要の懐石料理の定番。発祥は茶屋からという由来通り、すべて客室は茶室風の侘び寂の効いた素敵な設え。これぞ日本これぞ京都、その神髄を感ぜられる今では数少ない本物の輝きを放つ名店のひとつ。
約四百年ほど前に、南禅寺へお参りをする人々の休憩所として庵を結んだのが始まりという。この地は東海道の裏筋であったことから、旅人はここで旅衣を更え草鞋を新たにして、三条大橋へ向かったのだそう。そして天保八年、料亭の暖簾を掲げ、和敬静寂を心として歩み続けた歴史。現在でも昔と変わらぬ佇まいで、客をおもてなしているのである。
現地へ到着すると丁度女将さんがお出でになり、軽く挨拶をして中へ通してもらう。涼やかな打ち水、苔生す庭、小さな川を飛び石を踏みながら足を進める。歴史を幾重にも重ねてきた静寂と重厚さを併せ持つ空間に身を委ねてみる。増改築はあるものの、基本的に創業から変わらない建屋というお茶室は、その空間に座りぼーっと眺めているだけで鳥肌が立ちます。四畳半の部屋に座布団だけが並べられており、座布団の位置もしっかり縁から16目あけられていた、抜群の雰囲気。これぞ噂に違わぬ本格派。
「京料理の奥深さを存分に味わってほしい」と話す十四代目の高橋英一氏。和洋中華の境界がなくなってきて、日本料理にもさまざまな素材を用いるようになりつつある。あくまで料理屋、食べておいしい、ということが第一条件多様な材料の取り合わせを試しもする。だがこれ以上は越えられないという境界が暗黙のうちに存在する。瓢亭としては、お茶の料理の世界を踏みはずしてはいけない大きな垣根というものがあるその重みを存分に味わえる一軒です。